明治の文豪・夏目漱石は1900年頃、次のように2つの消費カテゴリーを分け語っていました。
「できるだけ労力を節約したいと云う願望から出て来る種々の発明とか器械力とか云う方面と、できるだけ気儘に勢力を費したいと云う娯楽の方面」。
漱石がいう「気儘に勢力を費したい」消費は、オタク的な消費として100年後の現在、もっとも注目を浴びています。しかし2020年から続くコロナ禍で、オタク活動(ヲタ活)の代表ともいえるライブ活動やグッズショッピングなどを1年以上制限されてきました。
オタク女子にとってヲタ活は、「趣味を毎日の生きる糧」「必要不可欠なサプリメント」。この1年どんな気持ちで過ごしてきたのでしょうか。
株式会社サンディアスでは、女性オタク、特に腐女子と呼ばれるBLファン約1000人に消費を始めとするオタク活動に変化があったのか、第3回目の緊急事態宣言中に調査をしました。
そこから意外な事実がわかってきました。
◆調査概要
有効回答数:974
調査対象:「ちるちる」ユーザー
調査方法:インターネットを用いたアンケート
調査期間:202年4月26日~2021年5月6日
回答者平均年齢:約34歳
調査したサイト「ちるちる」は株式会社サンディアス運営のBLレビューサイトです。
https://www.chil-chil.net
2020年から続くコロナ禍。その渦中でオタク活動は変化したか、女性のBLファンを中心とした女性オタクの方々にお聞きしました。
まずこの1年でヲタ活に変化があったか?活動がしやすくなったか?しにくくなったか?を質問しました。
「活動しにくくなった」「やや活動しにくくなった」が482人
「活動しやすくなった」「やや活動しやすくなった」150人
「変わらない」320人
という結果になりました。「活動しにくくなった」と答えたユーザーは「活動しやすくなった」と答えたユーザーのほぼ3倍となっています。活動しづらくなったのは誰もが実感することではないでしょうか。
ただ「変わらない」と答えた方がもっとも多く、これはもともとショッピングにでかけたりイベントに参加しないユーザーと考えることができるでしょう。
BLファンは、室内で読書にふけるタイプと声優、アイドルのイベントに積極的に参加するタイプで別れますので、インドア派のユーザーはほぼ影響を受けなかったようです。
次にBLを含む趣味に使う金額(一ヶ月平均)をお聞きしました。
前からの流れを考えますと、「減った」と予想される方が多いかと思いますが、結果は意外にも……
「消費が増えた」ユーザーは427人
「消費が減った」ユーザーは198人
という結果になりました。
「消費が増えた」が「減った」を約2.5倍上回っています。
コロナ禍で「活動しにくくなった」と考えるユーザーが多かったにもかかわらず、消費額が全体的に増えているのです。「巣ごもり需要」といわれ売上を伸ばした「ゲーム」「ホビー関連」と同じ状況がオタク女子にも生まれているようです。
コロナ前の自由に行動が出来ていた時期よりも全体で消費が増えていることがわかります。行動が制限されたにも関わらず、BLファンの消費は全体的に増えました。
次に消費の増えたカテゴリーについてユーザーにお聞きしました。(回答は4項目まで可)
顕著に消費の伸びが見られたのは次の項目でした。
「電子書籍で購入が増えた」569人
「通販で購入が増えた」519人
今回のコロナ禍で電子書籍と通販へのシフトが一気に進んだようです。そして意外な項目に「「書店、アニメショップ購入が増えた」180人があります。(ただし「書店、アニメショップ購入が減った」は177人)
外出の自粛を迫られましたが、逆にお店に足を運ぶユーザーも多かったのです。
ユーザーの個別の意見としては次のようなコメントがありました。
- SNSを見る機会が増えたお陰でヲタ活での買いそびれが少なくなった気がする。
- コロナがきっかけで電子書籍の使い勝手に目覚めた
- コロナになって初めてBLを知った。爆買いが止められなくなってしまった。
- マスクのおかげでBL本を書店で買いやすくなった
次に消費が減ったカテゴリーをユーザーにお聞きしました。
逆に消費が減ったカテゴリーは「イベント」「書店アニメショップでの購入」「同人即売会」です。外出を伴う消費は非常に減っています。2020年度は予定されていたライブの大半が中止や延期、無観客配信となってしまったので、「イベント」の参加が減ったと答えたユーザーが35%と最も多かったです。
ちなみに第一回緊急事態宣言が発令される前の2020年3月、同様のアンケートをちるちる上で行っています。
そのときは消費が減ったというユーザーが増えたユーザーを大きく上回っていました。ご興味のある方は、記事へのリンクをクリックしてください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000022111.html
今回のアンケートでは、ひと月にオタク活動に使う金額も調査しています。
まずオタク活動(BLを含む)に月額平均でいくら使うのかを聞いたところ、BL、スマホ、アイドル、イベント、グッズ、アニメなどに出費する金額は1ヶ月平均消費額19,380円という結果になりました。
BLファンは、商業BLのほかにも一般漫画を頻繁に購入することもあり、趣味への投資額が他のオタクよりも非常に大きな数字になっています。
ニッチに見えるジャンルにも関わらず、商業BL本をメインに扱う通販サイトが2サイト存在していますが、(「コミコミスタジオ」「ホーリンラブブックス」)これはBLファンの平均消費額が桁違いに高いことが要因になっていると思われます。
商業BL、同人誌、BLCDなどBL関連のみの消費額も尋ねたところ、1ヶ月平均消費額13,992円となりました。
1ヶ月平均の最頻値は「1000~5000円」ですが、1万円以上の単位で消費するユーザーが6割近くに達しており、平均するとかなり大きな金額になっています。
コアなBLファンが集まるサイトでのアンケート調査ということを差し引いても、BLファンを自認するユーザーであれば実感がある数字であると思われます。
次に年間ではどれぐらい使っているか、月額平均が季節的な要因などにより差があるのか確認するために質問をしてみました。
特にBLユーザーは年間で、BL関連の趣味のみに平均162,266円を使っています。前の質問で聞いた1ヶ月の平均消費額から推定する年間消費額との誤差が5000円程度であることから、BLファンは季節によらず、コンスタントな消費を行っているようです。
しかし、本当にこれだけの金額を消費しているのか?と疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。
そんな方は2018年に大ブームとなったドラマ『おっさんずラブ』(シーズン1)を思い出していただけるとよいかもしれません。
ドラマ『おっさんずラブ』は、2018年にテレビ朝日系で夜11時から30分枠で放送され全7話の平均視聴率は4.0%(関東地区)でした。
大きな話題になりましたが、視聴率で人気を計ると、歴代放映された同枠のドラマより数字が奮っていません。
しかしDVDブルーレイの初動セールスは38,500枚。ファンブックはベストセラーとなり、展示会に長蛇の列ができるという社会現象となりました。その後2019年に公開された映画版は動員数195万人、興行収入26.5億円でした。視聴率を人気の指標として考えると、なかなかうまく説明がつきません。
しかし圧倒的な趣味投資をするBLファンをほぼまるごと取り込んだことと、BLファンと同様な消費行動をする層を取り込みに成功したこと。このタイプの女性層の心を見事に掴んだことが一番の売上要因だと考えられます。
さてそんなBLファンは、もっぱらBL関連のジャンルにだけ消費しているのでしょうか。
次にBL以外にお金をかけているジャンルについて質問をしました。
BLファンが、BLや漫画、アニメだけにお金を落としているかというと、そういうわけでもなく美容コスメ、グルメ、ファッションなどの分野に投資をしていることがこのグラフから読み取ることができます。
非常に幅広く趣味にお金を使っていることがわかります。
ここまでコロナ禍での、オタク女子・腐女子の消費活動の変化をみてきました。
外出自粛により、イベントへの消費は減りましたが、代わりに電子書籍、通販でそれ以上の消費を行っていました。そして年間のBLへの平均消費額は162,266円という大きな金額となっていることがわかりました。
2020年度は、BL原作の作品が多数アニメ化、ドラマ化された「BL元年」ともいえる躍進の年でした。コロナ騒動が収束した後は、BLファンやオタク女子が日本の消費の牽引役となってくれるに違いありません。